平原草々の日記

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阿部昭『短編小説礼讃』

阿部昭の『短編小説礼讃』(岩波新書)を紹介します。
阿部昭の小説を読んだことはまだないですが、この『短編小説礼讃』は評価が高いものだったので、古本屋で買って読みました。
まず、著者の締まった文章が素晴らしいと思います。
短編小説の作者は短命が多いという著者の指摘通り、取り上げられた作家の多くが短命であり、著者自身もこの本を上梓した数年後に、55才で他界しています。その良し悪しはどうであれ、まさに、身を削って書かれた文章のように思います。
取り上げられる短編小説も、著者の好みか、引き締まった内容のものが多く、ゆったりと読むようなものよりも、短編の妙を味わうようなものが多く、著者の言う「やりきれないような話」のものも多々あります。
そのため、内容に対してあまり共感できないものもあり、特に、猫を残酷に扱った作品があり、そこは、読んでいていい気分がしませんでした。「残酷さ」は時には必要かも知れませんが、私は、どちらかと言えば、心があたたまるような作品が読みたいと思います。
ただ、この本をあらためて読み返してみて、今まで読んだことがなかった国木田独歩マンスフィールドの作品に興味を持つことができました。
私が短編小説を選ぶとしたら、著者とはほとんどかぶらないリストになると思いますが、かえってこの本を読まなかったら、出会えなかった作品がいかに多いことかということになります。それらの作品を今後読むかどうかはわかりませんが、未知の世界の本について知りうることが、こうした書物を読む醍醐味だと思います。
今は、古書としてしか手に入らない状態だと思われますが、ぜひ多くの方に読んでいただきたい名著だと思います。