平原草々の日記

思ったこと、音楽、本の感想など

日本文学

田中慎弥『共喰い』

田中慎弥さんの『共喰い』(集英社文庫)を読みました。田中さんと言えば、どうしても芥川賞の受賞会見の時の、あの憮然とした様子が思い浮かんでしまいます。 そのため、なんとなく敬遠していたところがありました。 今回は、その時のイメージは忘れて、純…

江國香織『ホリー・ガーデン』

江國香織さんの『ホリー・ガーデン』を読みました。 江國さんの小説を読むのは初めてでしたが、とても面白く読むことができました。 果歩と静枝という二人の女主人公の話ですが、二人の友情やそれぞれの恋愛模様、日常風景や心の動きなどがとても丁寧に描か…

穂村弘『短歌の友人』

穂村弘さんの『短歌の友人』を読みました。 ネット上でちらっと読んだ現代短歌に興味を抱き、詳しく知りたいと思ったものの、何から読んだらいいのか迷い、文章が面白そうで著書を多く出しておられる穂村さんの歌論集から読んでみることにしました。本当に穂…

村田沙耶香『コンビニ人間』

村田沙耶香さんの『コンビニ人間』(文春文庫)を読みました。 すごく面白かったです。 「普通/普通じゃない」という二分法の不条理を、幼い頃から「普通じゃない」と言われ続けてきた女性、コンビニバイト一筋の女性を通して、その冷静な内面から描き出し…

諏訪哲史『アサッテの人』

諏訪哲史さんの『アサッテの人』(講談社文庫)を読みました。 とても面白く、力のある作品だと思いました。 小説について考える小説というか、小説というフォーマットについて考えさせられる作品のように感じました。 「アサッテの人」と呼ばれる書き手の叔…

恩田陸『三月は深き紅の淵を』

恩田陸さんの『三月は深き紅の淵を』を読みました。 恩田陸さんの作品を読むのは初めてです。 あるブログで紹介されていて興味を持ちました。 明解な文章であり、さまざまな事象を取り扱う手腕は素晴らしく、ぐいぐい読ませる力があり、人気があるのもなるほ…

谷崎潤一郎『細雪』

谷崎潤一郎の『細雪』を読みました。 とても素晴らしい読書体験でした。 このままずっと蒔岡家の人々と時を過ごしていたいと思いました。 物語は、次女の幸子を中心とした、蘆屋の分家の人々の暮らしぶりがメインとなっています。 そこに三女雪子の見合い話…

安部公房『砂の女』

安部公房の『砂の女』読了。 一文一文が高密度で、様々な比喩を断定的に言い切る口調が、とてもカッコいい。 いろいろな寓意を感じ取れる内容だが、スリリングなサスペンスとしても一級品だと。 最後には、不思議なカタルシス、不思議な愛を感じる。 自分が…

三島由紀夫『天人五衰』

『豊饒の海』第四巻『天人五衰』を読み終わりました。 とても素晴らしかったです。 今回『豊饒の海』全四巻を読み返した中で、一番深い感銘を受けました。 この作品には、世界の真実を垣間見せてくれる力があったように思われました。 この巻の主人公は、最…

三島由紀夫『暁の寺』

『豊饒の海』第三巻『暁の寺』を読み終わりました。 とても面白かったです。 今回読み返してみて、高校生の時に読んだ時から一転して、とても印象深く読むことができました。 それは、自分が本多に近い年になったこともあると思います。 ここに描かれている…

三島由紀夫『奔馬』

『豊饒の海』第二巻『奔馬』を読み終わりました。やはり『春の雪』の感動には及ばなかったです。主人公の勲を中心に物語は進みますが、思想小説のような進行であり、少し一本道のような気もしました。 思想の内容についても、理解はできるが共感まではできな…

三島由紀夫『春の雪』

三島由紀夫の『豊饒の海』四部作を読んでいます。 今は、第一巻『春の雪』を読み終わって、第二巻『奔馬』を読み始めたところです。 以前、この四部作を読んだのは、高校生の頃でした。 その時の印象の深さは、『春の雪』>『奔馬』>『暁の寺』>『天人五衰…

三浦哲郎「たきび」

三浦哲郎さんの短編「たきび」を紹介します。 この作品には、学生時代に模試の小説の問題として出会いました。 どこか忘れがたい、甘い感傷を誘う掌編だったので、その後、この作品が収められた、新潮文庫の短編集モザイクⅡ『ふなうた』を購入して改めて読み…

吉増剛造『詩をポケットに』

吉増剛造さんの『詩をポケットに』(NHKライブラリー)を紹介します。 この本は、吉増さんが愛する詩人たちについて、講演原稿のような口語文、パウル・ツェランの「子午線」を思わせるような口調と、詩人らしい豊富な語彙、比喩表現が合わさった文章で語っ…

阿部昭『短編小説礼讃』

阿部昭の『短編小説礼讃』(岩波新書)を紹介します。 阿部昭の小説を読んだことはまだないですが、この『短編小説礼讃』は評価が高いものだったので、古本屋で買って読みました。 まず、著者の締まった文章が素晴らしいと思います。 短編小説の作者は短命が…

内田魯庵「二葉亭四迷の一生」

内田魯庵の「二葉亭四迷の一生」を、青空文庫のもので読みました。 二葉亭四迷については、以前好んで読んでいたことがあって、三つの小説(『浮雲』『其面影』『平凡』)や翻訳、「私は懐疑派だ」などの文章を読み、どれもとても面白く読みました。 夏目漱…

庄司薫『ぼくが猫語を話せるわけ』

庄司薫さんの作品は、学生の頃、中公文庫で出ていたものを集めて読みました。 『赤頭巾ちゃん気をつけて』を初めとする四部作は、どれも面白く読みました。特に『さよなら怪傑黒頭巾』のさわやかな印象が好きでした。 その当時読んだものの中で、今でも一番…

浅田彰『ヘルメスの音楽』

浅田彰さんの『ヘルメスの音楽』を紹介します。ちくま学芸文庫から出ているもので読みました。 とても美しい本です。 思想、音楽、美術などについて、それぞれはそんなに長い文章ではないですが、詩的な文章で綴られており、著者自身も「あとがき」で、この…

夏目漱石「私の個人主義」

夏目漱石の小説で一番好きなのは「明暗」です。 未完であるのが本当に残念ですが、ジェイン・オースティンやヘンリー・ジェイムズなどに近い会話劇、心理劇を堪能することができます。 その次は「こころ」です。先生の手紙の文体が、現代日本語の文章として…

二階堂奥歯『八本脚の蝶』

この『八本脚の蝶』は、あるブログで紹介されていて、河出文庫に入ったタイミングで読みました。 優秀な女性編集者として活躍されていた25歳の著者が、自死されるまでの日記が綴られています。 最初の方は、頻繁に言及されるさまざまな固有名詞に知らないも…

蓮實重彦『夏目漱石論』

学生の頃、柄谷行人、浅田彰、蓮實重彦という3人の高名な批評家を、「知の三巨頭」と思って尊敬し、よく理解できていなかったのですが、その書籍や、当時あった『批評空間』といった雑誌を頑張って読んでいたものでした。 蓮實重彦さんの文体は、当時から「…

西脇順三郎「Ambarvalia」

若い頃に、筑摩書房の日本文学全集の中の「萩原朔太郎 三好達治 西脇順三郎」の一巻を愛読していた時期がありました。 この日本を代表する著名な三名の詩人の中で、私は、西脇順三郎が一番好きでした。 特に第一詩集「Ambarvalia」は、日本的な風土とはかけ…

舞城王太郎「川を泳いで渡る蛇」

舞城王太郎さんは、東京大学出版会の「教養のためのブックガイド」という書籍で野崎歓さんが紹介されていて(私は昔からブックガイド、レコードガイドといった本を読むのが好きです)、一時期、熱心に読んでいました。 初期の頃の作品を主に読んでいて、どの…

保坂和志「夏の終わりの林の中」

保坂和志さんは、村上春樹の影響を受けた作家と言われ、確かに読んでみると、似たような調子が見られますが、村上春樹に比べて、日本文学よりの雰囲気を持っており、随筆的というか、穏やかな時の流れの中で交わされる人間たちの交流を、悠揚とした筆致で描…

原民喜『夏の花・心願の国』

原民喜には、子供の頃から変な先入観があり、原爆のことを怖ろしい筆致で描いた作家と思い込み、また、名前の「民喜」にも、どこか不気味な印象を感じていて、まったく読まずにいました。 それが、本年(2020年)のセンター試験の国語の問題として、原民喜…

小林秀雄「私の人生観」

私は、この文章が好きで、繰り返し読んでいます。 「観(visoin)」という主要主題があり、それについて、いろいろな話題が繰り広げられ、ハッとするような表現に満ちており、読み返すたびに新たな発見があります。 ただ、難解な部分もあり、いつもいっぺん…

村上春樹「蜂蜜パイ」

村上春樹については、熱心な読者とは言えないまま現在に至っています。 そのため、私などが村上春樹について語るのは大変おこがましいのですが、少し書いてみたいと思います。 私が学生の頃から、村上春樹の作品は毀誉褒貶が激しく、影響されやすい人間だっ…

三島由紀夫「海と夕焼」

「完璧な短編小説」といったものを考えてみると、この作品のことが思い出されます。 その構成、抑えた抒情、情景描写の巧みさ、そして何より美しい文章。 それらが一体となって、素晴らしい小説世界がつくられていると感じます。 極上のミニアチュールといっ…