部屋の片隅の光っている場所

思ったこと、音楽、本の感想など

日本文学

阿部和重『インディヴィジュアル・プロジェクション』

阿部和重さんの『インディヴィジュアル・プロジェクション』(新潮文庫)を読みました。 懐かしい作品です。 この作品は、学生時代、雑誌掲載された時に読みました。 とても興奮して、一気に読了した覚えがあります。 阿部和重さんは、デビュー作の『アメリ…

庄野潤三『プールサイド小景・静物』

庄野潤三さんの『プールサイド小景・静物』(新潮文庫)を読みました。 とても面白く読むことができました。 日常のさりげない情景を淡々と描いていますが、それがかえって時代を超えて現代にまで通じるある種の普遍性を感じさせるように思います。 また、そ…

吉本ばなな『キッチン』

吉本ばななさんの『キッチン』(新潮文庫)を読みました。 とても有名な作品で、私も学生時代から気になってはいて、何回か手にとって読もうとしたこともありましたが、その当時は、ライトな小説だろうと考えて、まあ、いつか読むかなぐらいに思っていました…

大岡昇平『花影』

大岡昇平さんの『花影』(新潮文庫)を読みました。 大岡昇平さんの小説を読むのは初めてで、この『花影』は以前から気になっていて、機会があったら読もうと思っていましたが、案外古本屋で見かけなかったので買うが機会がなかったのですが、ふと、出かけた…

『左川ちか詩集』

『左川ちか詩集』(岩波文庫)を読みました。 左川ちかは、若くして亡くなった詩人ですが、残された詩編などはどれも瑞々しい表現に満ちており、戦前の時代に書かれたとは思えないほどモダンな響きを持っており、今現在読んでも、その表現は全然古びておらず…

庄司薫『狼なんかこわくない』

歩みの中に ぼくは重みを失って行く 真昼の光にさらされたぼくの身体は 見知らぬ小さな空室になる 渡辺武信の詩(庄司薫『狼なんかこわくない』中公文庫p61より引用) 庄司薫さんの『狼なんかこわくない』(中公文庫)を読みました。 冒頭に掲げた詩の一節は…

福田章二(庄司薫)『喪失』

福田章二(庄司薫)さんの初期作品集『喪失』(中公文庫)を読みました。 めちゃくちゃ濃密な作品たちであり、青春や恋の「力の過剰」について、微に入り細を穿ったような複雑な心理を抉り出した小説であり、そんなに厚い本ではないのですが、一ページ、一文…

庄司薫「薫くんシリーズ」を読んで

庄司薫さんの、いわゆる薫くんシリーズ、赤黒白青四部作を読んだ全体の感想と、その後、大塚英志さんと丹生谷貴志さんの論考を読んだ感想を合わせて、ここでまとめて考えてみたいと思います。 (あまりうまく書けていません。ほとんど、私の備忘録です) ち…

庄司薫『ぼくの大好きな青髭』

庄司薫さんの『ぼくの大好きな青髭』(新潮文庫)を読みました。 はあー、すごかったですね。 何て言うか、次元が違うような気がしました。 ただ、もう少し長く書いて欲しかった気もします。 途中のいろいろなエピソードのディテールもそうですが、最後の部…

庄司薫『白鳥の歌なんか聞えない』

庄司薫さんの『白鳥の歌なんか聞えない』(新潮文庫)を読みました。 発表順(執筆順?)は三作目ですが、作品内の時系列では、『赤頭巾ちゃん』と『黒頭巾』の間になり、第二弾ということになっています。 作品内の時系列的には『赤頭巾ちゃん』を読んだ後…

庄司薫『さよなら怪傑黒頭巾』

庄司薫さんの『さよなら怪傑黒頭巾』(新潮文庫)を読みました。 いやあ、とても面白かったです。 今から約四半世紀前の学生時代に、この薫くんシリーズを読んだときも、この作品が一番好きかなと感じましたが、やっぱり今回も『赤頭巾ちゃん』を上回る感動…

庄司薫『赤頭巾ちゃん気をつけて』

庄司薫さんの『赤頭巾ちゃん気をつけて』(新潮文庫)を読みました。 庄司薫さんの薫くんシリーズ『赤頭巾ちゃん気をつけて』『さよなら怪傑黒頭巾』『白鳥の歌なんか聞えない』『ぼくの大好きな青髭』(「赤黒白青四部作」「薫くん四部作」等とも呼ばれる)…

矢本貞幹『夏目漱石-その英文学的側面』

矢本貞幹(やもとただよし)さんの『夏目漱石-その英文学的側面』(研究社叢書)を読みました。 タイトルの通り、夏目漱石を英文学の側面から見ていく研究書ですが、私は今まで、英文学に焦点を当てた漱石研究書を読んだことがなかったので、読んでいく中で…

いとうせいこう『ノーライフキング』

いとうせいこうさんの『ノーライフキング』(新潮文庫)を読みました。 とても面白く、久しぶりに一気読みしました。 著者自身も、アイデアが溢れ出て、一気に仕上がったとあとがきで書いておられ、ストーリー自体にも、前へ前へと進む勢いがあるように感じ…

文月悠光『臆病な詩人、街へ出る。』

文月悠光(ふづきゆみ)さんの『臆病な詩人、街へ出る。』(新潮文庫)を読みました。 とても読みやすいエッセイ集で、比較的早いスピードで読み終わることができました。 内容は、自称臆病な詩人である著者が、街に出て、いろいろな体験をしていく様子を綴…

金井美恵子『道化師の恋』

金井美恵子さんの『道化師の恋』(河出文庫)を読みました。 今まで読んできた三作(『文章教室』『タマや』『小春日和』)の中で、今作が一番の力作のように感じました。 小説技巧の冴えが素晴らしく、本当に「読む喜び」を感じさせてくれる読書でした。 ス…

金井美恵子『小春日和』

金井美恵子さんの『小春日和』(河出文庫)を読みました。 「目白四部作」の三作目です。 時系列でいえば、前作『タマや』より前の時期の話になります。 前作が、男たちの話だとすれば、本作は、女たちの話になります。 作者の金井さんも女性ということもあ…

金井美恵子『タマや』

金井美恵子さんの『タマや』(河出文庫)を読みました。 目白四部作の執筆順で言えば第二作となります。 第一作目の『文章教室』と比べて、なんというか「軽み」が感じられ、手慣れた感じがしました。 そんなに大きな事件(取りようによっては大きな事件です…

金井美恵子『文章教室』

金井美恵子さんの『文章教室』(河出文庫)を読みました。 とても面白く、楽しく読むことができました。 金井さんの小説は、初期の短編集を少しと最初の長編小説『岸辺のない海』を持っていますが、まだ、きちんと読んだことはありませんでした。 ただ、この…

「ザ・漱石【大活字版】全小説全二冊」

先日、ブックオフで「ザ・漱石【大活字版】全小説全二冊」上下巻(第三書館)を購入しました。 おそらく初代と思われる、とても小さな字の全一冊版も所有していますが、さすがに読みにくく、手に取りにくかったので、比較的読みやすそうなこちらを入手しまし…

恩田陸『小説以外』

恩田陸さんの『小説以外』(新潮文庫)を読みました。 とても面白く、半日かけて読み通しました。 恩田さんの作品は、以前『三月は深き紅の淵を』を読みました。 とても濃い作品だと思い、著者の力量の確かさとともに、著者がしっかりとした読み手であること…

大江健三郎 古井由吉『文学の淵を渡る』

大江健三郎さんと古井由吉さんの対談集『文学の淵を渡る』(新潮文庫)を読みました。 とても面白く、半日かけて一気に読んでしまいましたが、なんとなく、複雑な読後感が残りました。 文学に対するお二人の真摯な取り組み方に胸を打たれる一方、なんという…

河野多恵子『みいら採り猟奇譚』

河野多恵子さんの『みいら採り猟奇譚』(新潮文庫)を読みました。 河野多恵子さんの作品を読むのは初めてです。 この作品は、そのおどろおどろしい題名から印象が強く、河野さんの代表作の一つとして知っていて、蓮實重彦さんが解説を書いていることもあり…

諏訪哲史『偏愛蔵書室』

諏訪哲史さんの『偏愛蔵書室』(国書刊行会)を読んでいます。 とても刺激的な書評集です。 タイトルに「偏愛」という言葉が入っているように、特異な読み手である諏訪さんの選ばれる本は、一般的な名著というよりも、ある意味マニアックなものであり、それ…

大江健三郎『万延元年のフットボール』

大江健三郎さんの『万延元年のフットボール』(講談社文芸文庫)を読みました。 不思議なことに、ちょうどこの長編小説を読んでいる最中に、大江さんの訃報に接しました。 今はどうしておられのかなと思いながら読んでいた中での知らせでしたので、やはり、…

諏訪哲史『ロンバルディア遠景』

諏訪哲史さんの『ロンバルディア遠景』(講談社文庫)を読みました。 これは…かなり濃厚な作品でした。 設定的には、ランボーとヴェルレールの関係をモデルにしていると思いますが、いろいろな分野で、著者の濃密な嗜癖が注入された、非常に密度の濃い、人に…

諏訪哲史『りすん』

諏訪哲史さんの『りすん』(講談社文庫)を読みました。 はい、これは恐るべき作品でした。 休日の半日を使って、一気に読み通してしまいました。 「りすん」という、一見可愛らし気なひらがな表記のタイトルに騙されてはならないと思いました。 小説として…

夏目漱石『思い出す事など』

年末年始にかけて、夏目漱石の『思い出す事など 他七編』(岩波文庫)を読んでいました。 大晦日に実家に戻ったところ、たまたまこの薄い文庫本を見つけたので、読んでみることにしました。 『思い出す事など』は、いわゆる「修善寺の大患」と呼ばれる出来事…

大江健三郎『新しい人よ眼ざめよ』

大江健三郎さんの『新しい人よ眼ざめよ』(講談社文庫)を読みました。 大江健三郎さんは、村上春樹さんと並び、私の中では、気にはなるし、その才能は素晴らしいと思うけど、なぜだか、心から好きになることができないでいる作家のひとりです。 お二人とも…

小島信夫『残光』

小島信夫さんの『残光』(新潮文庫)を読みました。 著者90歳の時の最後の長編小説ということですが、中身はしっかりと小島信夫の世界であり、著者のことを知らない人からすれば、一体何のことやらと思われるような内容だと思います。 話しは重複したり前後…