部屋の片隅の光っている場所

思ったこと、音楽、本の感想など

村上春樹「蜂蜜パイ」

村上春樹については、熱心な読者とは言えないまま現在に至っています。

そのため、私などが村上春樹について語るのは大変おこがましいのですが、少し書いてみたいと思います。

私が学生の頃から、村上春樹の作品は毀誉褒貶が激しく、影響されやすい人間だった私は、ロクに読みもせず、おそらく自分には縁の無い作家ではないかと勝手に思い込んでいました。

でも、すっと気にはなっていたため、まずは、ということで大ベストセラーである「ノルウェイの森」を買ってきて読みました。

そして、率直に言って、大いに感動しました。

私は、福永武彦の「草の花」や柴田翔の「されどわれらが日々」など、青春回顧ものが好きだったこともあり、「ノルウェイの森」も、どストライクな作品でした。

そして今思うに、それらの作品は、若い頃に出会えたからこそ、心に痛いほど響いたのではないかと思います。

それから、村上春樹の作品を「風の歌を聴け」「1973年のピンボール」「羊をめぐる冒険」と順番に読んでいきました。最初の2作は、本当にすごいと思いましたが、「羊をめぐる冒険」の時に、だんだんと息切れがしてしまいました。

その後は、「世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド」「国境の南、太陽の西」「ねじまき鳥クロニクル」「海辺のカフカ」と書籍は買っていたのですが、どの作品も、なぜだか読み通すことが難しいと感じ、途中で読むのをやめてしまい、完読したものは「スプートニクの恋人」だけという感じになりました。

これは本当に個人的な見解ですが、私は、作者一流の洒脱な文体の背後にある、柔和なふりをした残酷さがどうしても好きになれないなと思いました。

そうした部分があまり目立たない「若い読者のための短編小説案内」や「小澤征爾さんと、音楽について話をする」などは、楽しく読んだ覚えがあります。

神の子どもたちはみな踊る」は、文庫になった時に読みました。

そして「ノルウェイの森」以来の感動をこの短編集から得ました。

思うにそれは、三人称で書かれていることが、この作品集を私に近づけてくれた理由ではないかと思っています。

どの作品も好きですが、特に、最後に置かれた「蜂蜜パイ」は、この作家の美点が凝縮されたような、とても感動的な一篇だと思います。

特に、希望を感じさせて終わるラストには、何度読んでも、その都度、パワーをもらう感じがします。

長編では挫折続きだったのですが、短編については、この作品集のもの以外は、あまり読んだことがありません。

今度は、短編から読み進めてみれば、この作家の新たな魅力に気づくことができるのかもしれないと思っています。